みんな大好きリベルタンゴ!

先日 (2021年5月4日) NHK-FM で放送された「今日は一日ピアソラ三昧」はなかなかすごい番組でした。休日の午後ほぼまるまる、12:15~21:15 の9時間 (途中ニュース中断をはさみ正味8時間半) ぶっ通しで、文字通りピアソラ三昧の時間。堪能しました。

で、これを聴きながら Twitter の反応を見ていて改めて認識したのが、みんな「リベルタンゴ」好きだなあ、ということ。リベルタンゴの聴き比べしたい、という投稿もあった気がします。実ははるか昔、リベルタンゴ聴き比べって書いたことがあるんですよね。1998年11月だから22年半前!でも当時はストリーミングなんてなかったのであくまでCD紹介。という訳で今回はプレイリスト作ってみました。はい、こちら!

最初の4曲がピアソラ本人によるもので、そのあと年代順にカバーを並べてあります。拾い始めたらキリがないので手持ちで気に入っているものとたまたま見つけて気になったものに限定。以下各トラックの説明です。曲名は5を除いてすべて Libertango なので省略します。

  1. Astor Piazzolla (1974, “Libertango”)
    これがこの曲のオリジナル録音。ブエノスアイレスでの活動に行き詰まりを感じていたピアソラが、活動拠点をイタリアに移して最初に録音したアルバム “Libertango” のタイトル曲です。ジャズ/ロック路線に舵を切ったピアソラがイタリアのスタジオミュージシャンを起用して録音したこのバージョンは、何かと不評ですよね。特にリリース当時の日本のタンゴファンには全く受け入れられなかったようです。またヨーヨー・マや1980年代のピアソラ五重奏団の演奏でこの曲を知った人にとっても「なんだこれ?」な録音に感じられるのかと思います。ただ私自身は、ピアソラが閉塞状況から飛び出した解放感や強い決意が感じられて、結構好きなバージョンです。
  2. Astor Piazzolla (1976, “Piazzolla y El Conjunto Electronico”)
    1975年、ピアソラはライブのためにアルゼンチン人のメンバーによるグループを結成します。一般にコンフント・エレクトロニコと呼ばれるこのグループ、メンバーはアストル・ピアソラ (bn)、アルトゥーロ・シュネイデル (as, fl)、オラシオ・マルビチーノ (g)、フアン・カルロス・シリリアーノ (pf, el-pf)、アダルベルト・セバスコ (b)、サンティアゴ・ジャコーベ (org)、エンリケ・ロイスネル (ds)、ダニエル・ピアソラ (synth, perc)。当初はシュネイデルではなくアントニオ・アグリ (vn) が参加していました。ギターのマルビチーノは1955年の≪オクテート・ブエノスアイレス≫以来ピアソラの最後の六重奏団まで、断続的ながら長らくピアソラと活動を共にしてきた人です。ダニエル・ピアソラはアストルの息子です。
    残念ながらこのグループはライブ専門でスタジオ録音は残されていません。このトラックを含む1976年ブエノスアイレスのクラブ≪ラ・シウダー≫でのライブ録音が出回っていますが、本来リリース目的の録音ではないためバランスは今一つ。しかもこの曲では、ピアソラが走り気味で他のメンバーとリズムが合っていなかったりして、正直あまりバンドとしての音のまとまりも良くありません。ただセバスコのベースのフレーズなどなかなかかっこ良くて、捨てがたい魅力もあります。ラストがレコードではフェードアウトだったのに対して、新たなエンディング部分が追加されています。
  3. Astor Piazzolla (1977, “Olympia 77”)
    上記のコンフント・エレクトロニコは1976年に解散、翌年パリのオランピア劇場でのコンサートのためピアソラはグループを再編します。この時は上記のメンバーの再集結はかなわず、息子のダニエル以外は若手ミュージシャンを起用することになります。そのメンバーはアストル・ピアソラ (bn)、グスタボ・ベイテルマン (pf)、ルイス・フェレイラ (as, fl)、ダニエル・ピアソラ (synth, perc)、ルイス・セラボロ (ds)、リカルド・サンス (b)、トマス・グビッチ (g)、オスバルド・カロー (pf)。ベイテルマンは後にフランスでバンドネオン奏者フアン・ホセ・モサリーニ、ベース奏者パトリス・カラティーニとのトリオ で、オスバルド・カローも同じくフアン・ホセ・モサリーニのオルケスタやモサリーニ=アントニオ・アグリ五重奏団で活躍します。
    こちらは正規のライブ盤としてリリースするために録音されたもので、音質もバランスもはるかに良好。グビッチのギターを皮切りに徐々にメンバーが加わってアドリブを展開する長い導入部が徐々に雰囲気を盛り上げて、ようやくおなじみのテーマが始まります (本当は2でも同様の導入部があったらしいのですがカットされています)。そこからの演奏も、リズムがタイトに決まっていてかなりの迫力。エレクトリック・ピアソラの本領発揮の感があります。
  4. Astor Piazzolla y su Quinteto Tango Nuevo (1983, “Live in Wien”)
    多くの人がイメージする「ピアソラの演奏するリベルタンゴ」がこれでしょうか。メンバーはアストル・ピアソラ (bn)、パブロ・シーグレル (pf)、フェルナンド・スアレス・パス (vn)、エクトル・コンソーレ (b)、オスカル・ロペス・ルイス (g)。確かに力強くタイトなアコースティック・フュージョンといった趣も感じられて、人気があるのも頷けます。
    ちなみに、実は1981年にブエノスアイレスのグラン・レックス劇場で行われたキンテートのライブの録音がCD化されているのですが、そちらではこの曲のみドラムス、フルート、もう一人のバンドネオンが加わっていて、こちらのお馴染みのアレンジとは異なる演奏になっています。オンラインで聴けるものは見つからず、ご紹介できないのが残念です。
  5. Grace Jones / I’ve Seen That Face Before (Libertango) (1981, ”Nightclubbing”)
    ここからはピアソラ以外によるカバー集。いきなり全然毛色の違うものが来ました。ジャマイカ出身のモデル・女優・歌手グレース・ジョーンズがオリジナルの歌詞を付けて歌ったもので、1981年の録音ですから4よりも前ということになります。作詞はジョーンズ自身とバリー・レイノルズ。頭頂部まっ平の角刈りのルックスでクールなレゲエにアレンジされたこの曲を歌うミュージックビデオは、かなりのインパクトがあります。それなりに日本でも知名度のあった彼女であり、一方でピアソラはまだ初来日すら果たしていない時期のものですので、当時聴いた人の多くはピアソラとは結び付いていなかったでしょうね。
  6. Daniel Piazzolla (1996, “Piazzolla by Piazzolla”)
    上の2, 3にも参加していたアストルの息子ダニエル・ピアソラが、父親のグループのコンセプトを受け継いで自身のグループで録音したものです。ダニエルのほか孫のピピ・ピアソラ (この時点では本名のダニエル・アストル・ピアソラでクレジット) がドラムスで参加しており、バンドネオンはフリオ・パネが弾いています。オルガンやシンセの使い方がだいぶこなれてきた感があります (と言ってもあくまで90年代の音ですが)。
  7. Richard Galliano, Michel Portal (1996, “Blow up”)
    フランスのニュー・ミュゼットの旗手であり、またピアソラの音楽も多数取り上げているアコーディオン奏者リシャール・ガリアーノと、同じくフランスのクラリネット他いろいろ奏者ミシェル・ポルタルのデュオ。ここではポルタルはバンドネオンを弾いており、アコーディオンとバンドネオンの蛇腹対決となっています。丁々発止の掛け合いがたまらないです。
  8. Yo-Yo Ma (1997, “Soul of the Tango”)
    はい、ここでようやく登場。日本ではサントリーのコマーシャルに使われて、一躍ピアソラの名前と共に一般に知れ渡ったヨーヨー・マのリベルタンゴです。ピアソラ本人の2~4の演奏に比べるとずいぶん上品な仕上がりに感じられますが、ヒットの要因としてはそれが良かったのかもしれません。実は参加メンバーはネストル・マルコーニ (bn)、アントニオ・アグリ (vn)、オラシオ・マルビチーノ (g)、エクトル・コンソーレ (b)、レオナルド・マルコーニ (pf)、オスカル・カストロ=ネヴェス (ac-g) と、最後のカストロ=ネヴェス以外はアルゼンチン人、それも大半がピアソラゆかりのミュージシャンです。
  9. Yo-Yo Ma, Fred Frith (1997, “The Tango Lesson – Original Motion Picture Soundtrack”)
    ヨーヨー・マの「リベルタンゴ」はサリー・ポッター監督の映画『タンゴ・レッスン』でも使われました。ベースは8と同じですが、音楽担当のフレッド・フリスのギターやベースが追加されています。妙な浮遊感がクセになるバージョンです。
  10. 黒田亜樹 (1998, 『タンゴ・プレリュード~ピアソラ・ピアノ作品集~』)
    ピアニスト黒田亜樹がピアソラ作品を取り上げたアルバムの1枚目に収録されたもの。4のピアソラ五重奏団のバージョンをピアノ1台にアレンジしており、その技巧と迫力 (とジャケット写真のインパクト) で当時話題になりました。ちなみにアルバムのメインはピアソラがクラシック作品として書いたピアノ曲で、そちらも貴重な録音です。
  11. Michel Camilo, Tomatito (2006, “Spain Again”)
    ミシェル・カミロはドミニカ出身のジャズピアニスト、トマティートはスペイン出身のフラメンコギタリスト。この2人の2000年のアルバム『スペイン』の第二弾として2006年にリリースした『スペイン・アゲイン』に収録されているのがこのトラックです。技巧的にすごい二人のデュオということで、これまたなかなかの迫力。
  12. Escalandrum (2011, “Piazzolla Plays Piazzolla”)
    エスカランドゥルムはアルゼンチンのジャズグループで、率いているのはドラマーのピピ・ピアソラ。6でも登場した、アストル・ピアソラの孫です (女優シシド・カフカは彼にドラムスを習ったそうです)。ピアニストのニコラス・ゲルシュベルグによるポリリズムなアプローチのアレンジが斬新で、なかなか聴きごたえのある演奏です。
  13. The Swingle Singers (2013, “Weather To Fly”)
    アカペラコーラスグループとしては相当な老舗のザ・スウィングル・シンガーズ。1962年結成だそうで、実はまだ活動しているとは知りませんでした (当然メンバーは入れ替わっています)。これは2013年にリリースされたもので、今回このプレイリストを編集する際に初めて知ったのですが、めちゃめちゃかっこいいですね。
  14. Chango Spasiuk (2014, “Tierra Colorada en el Teatro Colón: Chango Spasiuk en Conciero (En Vivoen el Teatro Colón)”)
    これもこのプレイリストを編集する際にたまたま見つけたもの。アコーディオン奏者チャンゴ・スパシウクはアルゼンチン北東部リトラル地方のフォルクローレであるチャマメのトップアーティストで、これはコロン劇場でのライブ録音です。タンゴではないアルゼンチン音楽にも素晴らしい人がたくさんいますね。これまためちゃめちゃかっこいい。
  15. 上原ひろみ, Edmar Castaneda (2017, “Live In Montreal”)
    言わずと知れたピアニスト・上原ひろみが、コロンビア出身のアルパ (ハープ) 奏者・エドマール・カスタネーダと共演したモントリオールでのライブ録音。これもまたまたすごい演奏で、めちゃめちゃかっこいい (3つ連続…ほかに言うことないんかい!と言われそうですが、ありませんw)。
  16. 佐藤芳明 (2018, 『稜線』)
    最後はアコーディオン奏者・佐藤芳明の演奏。がらっと雰囲気変わります。これはいろいろ言わずにいきなり聴いていただいた方が良いですね。とても美しい演奏です。

以上!のつもりでしたが、Spotify になくて YouTube にあるものを少々。まずはフランスの Gui Marchand ギー・マルシャンの1975年の “Moi, je suis tango” (私はタンゴ)。演奏はピアソラ自身です。

こんなのもありなんですね。シングルでリリースされて結構売れたんだそうです。

最後は先ごろ亡くなった Chick Corea チック・コリア。投稿者の説明には、ダニエル・ピアソラから提供を受けた音源とありますが、どうやら1996年にブエノスアイレスで行われたアストル・ピアソラのメモリアルコンサート『アストルタンゴ』に出演した際のもののようです。チックらしいイマジネーションに溢れたリベルタンゴです。

というわけで、さすがにそろそろお腹いっぱいですね。

実は白状すると、私は元々そんなにリベルタンゴって好きじゃなかったんです。でもこうやって並べてみると曲そのものにすごく自由度があって、まさに自由なタンゴ=リベルタンゴであることを実感できました。この記事でリベルタンゴのいろいろな魅力を発見していただけたら、そしてこれまで知らなかったアーティストとの新たな出会いのきっかけになったら、とてもうれしいです。

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