自分の聴覚に多大な影響を与えたレコード (4) Boston / Don’t Look Back

Facebook で回ってきたバトン「自分の『聴覚』に多大な影響を与えたレコード」の補足その4は、ボストンの2枚目のアルバム “Don’t Look Back” です。

Boston / Don’t Look Back (1978, EPIC/Sony 25-3P-1)

聴覚影響ポイント:ディストーションギターの洪水!

実はワタクシ、高校時代にオフコースのコピーバンドでギターを弾いていました。当時リリースされた彼等の “Three and Two” は、それまでの小田和正と鈴木康博のデュオから5人編成のバンドへと形を変えたオフコースの記念すべきアルバムで、めちゃめちゃ聴きまくり、何曲かはコピーして自分たちでも演奏しました。

中でもこの中の6曲目 (当時はB面1曲目) の “Save the Love” という曲が、これまでのオフコースにはないほどロック色が強く、しかもドラマチックで大好きでした。

やがて「オフコースの Save the Love はボストンの Don’t Look Back に非常に似ている」と誰かが言っているのを聞き付けます。当然「そうなの?ほんとに?じゃあ聴いてみなくては」となり、かくして今回取り上げるアルバムとの出会いに至ったのでした。

うわ、確かに似てる…。声質とか歌詞の世界観とかは全然違いますし、パクりというよりはインスパイアであると思っていますが、まあとにかく似てます。しかもかっこいい。というわけでこれも愛聴盤になったのでした。

当時を知っている人の間では有名ですが、この当時いくつかのバンドは、シンセサイザーを使わずに音を創り上げることを誇りに思っていた節があります。有名なところではクイーン。1970年代の彼等のアルバムには “Nobody played synthesizer” のクレジットがあります (その後方針転換してシンセも使うようになりますが)。ボストンも同様で、このアルバムにも “No Synthesizers Used / No Computers Used” のクレジットがあります。

そんな彼等のこだわりの音創りを担ったのがリーダーのトム・シュルツ。マサチューセッツ工科大学出身のエンジニアでもあった人物で、彼が自らの理想の音を実現したバンドがボストンだったと言えるでしょう。エフェクターやスタジオ技術を駆使し、単にハードに歪んでいるだけでなく効果的に空間を埋め尽くすように配置されたギターは、まさにディストーションギターの洪水です。今でこそこの手の音は珍しくはありませんが、彼等が始まりだったのです。

私がこのアルバムの中で好きなのは、4曲目の “A Man I’ll Never Be”。スピード感溢れるロックンロールが並ぶアルバムの中で唯一のバラードであるこの曲、ピアノの伴奏でスタートし、アコースティックギターのアルペジオが重なり、やがてバンド全体の音へと移行するのですが、このギターのアルペジオの音の作り方がとても上手いんですよね。2コーラス目はクリーントーンのエレクトリックギター、さらに3コーラス目は少し歪んだエレクトリックギターに置き換わっていて、概ね同じようなアルペジオで感情の高まりを見事に表しています。もっとも歌詞は「君が僕の中に見ているのは、決して僕がなり得ないような男。本当の僕を知ったら君は去っていくだろう。」というような内容で、高校生の頃こそなんだか切なくなったものの、今となっては「何言ってるんだか。しっかりせい!」と言いたくなりますけど。

というように、特にエレクトリックギターで出す音についてものすごく影響を受けたのがこのアルバムでした。

ただ、後に彼等のファーストアルバムを聴いたら、断然こっちの方が出来が良かった。

しかも、感動的だと思った “A Man I’ll Never Be” のギターソロのフレーズの一部が、”More Than a Feeling” のギターソロのフレーズの使い回しだということに気付いてしまい、ちょっと興ざめでした。

さらに、トム・シュルツの完全主義が災いしてリリースまでやたらと時間のかかった3枚目は、聴いてがっかり。確かに相変わらずのギターによる壮大な音創りは健在でしたし “Amanda” というヒット曲も出ましたが、アルバム全体の曲作りという面では明らかに行き詰まりを感じました。

結局トムは、ミュージシャンである以上にエンジニアなのでしょう。曲を書いて演奏するよりすごい音を作ることの方が好きで、曲はそのための材料でしかないのかもしれません。そしてその側面は、レベルこそ全然違うものの私自身も持っていたものでした。高校時代に彼等の音に憧れて、私自身もディストーション、オーバードライブ、フェイズシフター、コーラス/フランジャーといったエフェクターを自作しては音を出して悦に入るということを繰り返すようになり、ギターの演奏そのものは二の次になります。大学で電気・電子系の学科に進んだのも、音響機器に強い会社に就職したのも、彼等の音に出会ったことが多少は影響しているはずです (もちろんそれだけではない色々な要因はありましたし、実際就職してみると全く違う分野に配属されて、結局音に関わる仕事をすることなく現在に至るのですが)。

そんなわけで、なんだか後半はあまり良いことを書いていませんが、そういうこともひっくるめて、自分のコンプレックスも再確認しながら、この Don’t Look Back は確かに私の聴覚に影響を与えたなあ、と思うのです。

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