Pat Metheny Dream Box Solo Tour (2024/01/30 東京・青山 ブルーノート東京)

昨年リリースされた新作 “Dream Box” をタイトルに据えたパット・メセニーのソロツアー。そのラストを飾るブルーノート東京での公演の初日セカンドステージに行ってきました。

素晴らしかった!

実は同行の友人たちと近くのレストランで食事をしていて、ブルーノートに着いたのは開演5分前。ギリギリだー、でも大抵スタートは遅れるから、とタカを括っていたら、席に案内された時には既に本人からのメッセージの日本語訳が流れており、定刻の20:30ぴったりに本人が登場。後から聞いた話では観客にライブに集中してもらうために開演30分前からBGMを止めていたそうで、我々は彼の基準からすればいささか不良リスナーだったかもしれません。

まあ、それはそれとして、ギターの神の申し子か、それとも神それ自身か。その演奏は静かに、高い集中力を持って始まりました。序盤はナイロン弦のアコースティックギターでいくつもの曲をメドレーでつないだ演奏で、それだけでひとつの物語のよう。その後スチール弦のアコースティックギターでストローク主体の演奏が続き、彼のリリカルでナチュラルな音の世界を堪能…と思ったらその次は一転、別のアコースティックギターで思い切りぶっ壊れたような、ヘビーでエクスペリメンタルな世界に。思わず観ているこっちがニヤニヤしてしまいます。そう、素朴でナチュラルな面とクレイジーな面が共存しているのがパット・メセニーなんですよね。

ダブルネックにたくさんの共鳴弦を備えたピカソギター、通常のギターよりもスケールが長くて低音側に音域が広がっているバリトンギター。それぞれの楽器を誇らしげにアピールし、実に嬉しそうに楽しそうに弾くパット。「これは新しい楽器だよ。ナイロン弦のバリトンギターさ。これで新曲をやるよ。」とか。ああ、この人は本当にギターが好きで、純真なギターオタクそのものだなあ、と思いました。

終盤はルーパーを駆使したひとりセッションへ。ギターもバリトンを使ったあとようやくエレクトリックが登場。ベースラインを弾いて、コードを重ねて、テーマ、アドリブ。ブルースチューンを演奏したということもあって、この辺が一番「ジャズ」っぽかった気がします。至福の時間とともに終演、オーディエンス総立ちのスタンディングオベーション。

すると、パットが「もう一曲やるよ!」と即座にアンコールへ。その瞬間、ステージ後ろの黒い布で覆われていた謎の物体が姿を現します。オーケストリオン!19世紀末から20世紀初頭に存在した大掛かりな自動演奏機械「オーケストリオン」のコンセプトをもとに、パットが科学者やエンジニアとともに現代のテクノロジーで作り上げたものだそうで、ソレノイドやエアフローを駆使して多彩なアコースティック楽器を自動的に鳴らし、無人オーケストラを実現する装置です。そのオーケストリオンの演奏をバックにパットがギターを弾きまくるのです。

今回はクラブサイズのミニ版でしたが、私自身生で観るのは初めてで、想像していた以上のインパクトがありました。単純に自動演奏ということで見ればシンセサイザーとシーケンサーで同等のことはできるでしょうし、サンプリング音源を使えば音も近いものができるはずです。でもやはり、その場で生音の楽器が鳴っていることは、何故か意味合いが違って聴こえるのです。実際に空気が振動していること (例えマイクで拾ってPAを通しているとしても) や、楽器間の共鳴等が影響しているのかもしれませんし、単純に視覚的なものが我々に心理的影響を与える、という面もあるかもしれません。他ならぬ演奏者のパットが生音に包まれることが、インスピレーションやエネルギーになっているという面もきっとあると思います。パットが弾いたのはギターシンセサイザー。あの独特の音色がたくさんのアコースティック楽器の音に包まれて響き渡る、その一部始終を聴き通し見届けたことは、幸せ以外の何物でもありません。

そしてさらにもう一曲オーケストリオン+ギターでの演奏。ちょっと記憶が混ざっている可能性もありますが、確かギタースタンドにセットされたギターによるアルペジオからスタートしたのだったか…。このギターはいわゆるナッシュビルチューニング (6弦ギターの3〜6弦に12弦ギター用の1オクターブ上の弦を張ったもの) だったように思います。その音をループさせておいて、ステージ反対側のスタンドにセットされたエレキベースを弾いてループ、そこからギターとオーケストリオンの目眩く音の世界へ。これまた素晴らしい以外に言葉のない演奏。そんなこんなで終わってみれば約100分、2ステージ制のライブハウスの1ステージ分としては異例の長さだったと思います。この日のこのステージ以外は80分前後だったらしいので、すごくラッキーでした。

振り返ると、オーソドックスなギターソロから楽器のバリエーションへ、そこからルーパーを使ったひとりセッション、最後はオーケストリオン、という一連の流れは全体でひとつのドラマのようでもありました。パットのこれまでの音楽の集大成のようにも思えましたが、今回のツアーの初日を終えて「自分の残りの人生のスタートラインに立った気分だ」と語った彼にとってはまだまだ集大成という言葉は似つかわしくないでしょう。早くも次の作品、次の来日が待ち遠しい気持ちです。

Pat Metheny Dream Box Solo Tour

日時:2024年1月30日(火) 20:30〜 (2ndステージ)

場所:東京・青山 ブルーノート東京

出演:パット・メセニー (ギター、バリトンギター、ピカソギター、オーケストリオン)

曲目:今回は全然整理できず

そうそう、全くの余談ですが、ナイロン弦のバリトンギターって南米のギタロンとほぼ同等のものですね。と強引に自分の記事に結びつけてみたり。

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