スローなタンゴにしてくれ

母の好きだったタンゴもいいけど、自分の好きなタンゴも紹介しようかと Spotify のプレイリストをいじり始めました。しかしながら、単に好きな曲を集めると収拾がつかなくなりそう…で、たまたま最初にプレイリストに入れた数曲が割とスローな曲だったので、そのままその路線でまとめてみたら、ノスタルジックだったりメランコリックだったりするタンゴが揃いました。思いつくままにまとめた割にはなかなかいい感じではないでしょうか、と自画自賛。

まだまだ暑い盛りとはいえ、日が暮れるのは目に見えて早くなり、夜風にはほんの少し秋の気配も感じられないこともない気がする(笑)今日この頃、これからの秋の夜長のお伴に楽しんでいただけたら嬉しいです。

興味のある方は以下の曲目解説もご一読ください。

  1. Loca bohemia ロカ・ボエミア (フランシスコ・デ・カロ曲、ダンテ・A・リンジェーラ詞)/フリオ・デ・カロ六重層団
    タイトルの意味は「狂乱のボヘミアン生活」ですが、狂乱というタイトルとは裏腹にセピア色の映画のワンシーンを思わせるようなこの曲、夢に生きた青春時代を回顧する歌詞がついているそうです (ここでは歌われていません)。演奏は現代タンゴの基礎を築いたといわれるバイオリニスト、フリオ・デ・カロの六重奏団で、1928年の録音。ここでピアノを弾いているフリオの兄フランシスコ・デ・カロが作曲者です。「タンゴ・ロマンサ」と言われるスタイルの代表曲です。
  2. Flores negras 黒い花 (フランシスコ・デ・カロ曲、マリオ・ゴミーラ詞)/オスバルド・タランティーノ (ピアノソロ)
    同じくフランシスコ・デ・カロのタンゴ・ロマンサ。演奏はアストル・ピアソラとの共演でも知られるオスバルド・タランティーノのピアノ・ソロで、1991年5月にブエノスアイレスのサン・マルティン将軍劇場で行われたコンサートのライブ録音です (“Solo piano tangos en vivo”)。自由奔放で優れた即興演奏を多く残しながら、アルコールでしばしば仕事に穴を開けてしまったという破滅型の天才タランティーノ。ここでもちょっと酔っぱらってるようなふらついた感じがあったり、でもがつんとした重さが感じられたりして、何とも魅力的です。この数か月後には癌でこの世を去ってしまった彼の最後の記録です。
  3. El once エル・オンセ (オスバルド・フレセド曲、エミリオ・フレセド詞)/オスバルド・フレセド楽団
    タイトルは数字の11の意味で、1924年に行われた第11回目の医学実習生ダンスパーティーのために書かれた曲。作曲者のフレセドはバンドネオン奏者で、ここに挙げた録音が行われた1950年代には優雅な美しいスタイルの演奏を多く残しています。古き良きダンスパーティーの様子が目に浮かびます。
  4. Organito de la tarde たそがれのオルガニート (カトゥロ・カスティージョ曲、ホセ・ゴンサレス・カスティージョ詞)/カルロス・ディ・サルリ楽団
    演奏するカルロス・ディ・サルリはピアニストで、オスバルド・フレセドの流れを汲みつつさらに強靭なリズムと優雅なハーモニーの交錯する独自のスタイルを作り上げた人物。ディ・サルリの名演という意味ではほかの曲を挙げる方も多いと思うものの、この曲の何とも言えぬノスタルジーが私は好きなのです。1950年代の録音 (正確な録音年は未確認)。
  5. Divina ディビーナ (ホアキン・モラ曲、フアン・デ・ラ・カジェ詞)/ルシオ・デマーレ (ピアノ・ソロ)
    作曲のホアキン・モラはアルゼンチンには珍しい黒人のバンドネオン奏者で、タンゴ・ロマンサのスタイルの曲を多く作っています。タイトルの意味は「女神」。その美しいメロディーはちょっと東洋的なニュアンスも感じられます。演奏は「マレーナ」等の作曲でも知られるピアニスト、ルシオ・デマーレで、1957年の録音。ピアノソロでも2のタランティーノの演奏とはずいぶん異なる味わいで、こちらは聴いてる側がお酒でも飲みたくなるような雰囲気です。
  6. En las sombras 影の中で (ホアキン・モラ曲、マヌエル・メアーニョス詞)/アストル・ピアソラ楽団
    これもホアキン・モラのタンゴ・ロマンサで、アストル・ピアソラ五重奏団に大編成のオーケストラを加えての演奏。この曲、前半のピアソラによるバンドネオンソロがこの上もなく美しいのです。続くギターソロ、バイオリンソロも絶品で、若いころの私はこの曲ばかり何度聴いたことか。実はピアソラがひどいスランプにあえいでいた1967年に録音された、タンゴの歴史をたどるという企画もののアルバム “La historia del tango Vol.2 – Epoca romantica” の中の一曲です。スランプゆえの苦肉の策だった企画のようですが、こんなに美しい演奏が残るならスランプもまたありがたいものです。
  7. Ensueños 夢の中で (ルイス・アントニオ・ブリヘンティ曲、エンリケ・カディカモ詞)/キンテート・レアル
    キンテート・レアルはピアノのオラシオ・サルガンを中心とした名手ぞろいの五重奏団で、これは確か1964年の録音です。実は1960年に発表された彼等の最初のアルバムにも同じ曲が収録されており、アルバムとしてはそちらの方が評価が高いのですが、この曲に関しては私はこちらのバージョンの気怠く物憂げな雰囲気が好きなのです。
  8. Volver 帰郷 (カルロス・ガルデル曲、アルフレド・レ・ペラ詞)/アストル・ピアソラ=アニバル・トロイロ (バンドネオン二重奏)
    タンゴ歌手カルロス・ガルデルが1935年のパラマウント映画『想いのとどく日』で歌った曲で、演奏はアストル・ピアソラとアニバル・トロイロのバンドネオン二重奏。ピアソラはバンドネオン奏者としてのキャリアの駆け出しのころである1939年にトロイロ楽団に入団して44年まで在籍しており、そこで多くのことを学んでいます。この録音は1970年のものなので、26年ぶりの師弟共演ということになります。切々とメロディーを歌うトロイロ (右チャンネル) と、それを豊かなハーモニーで支えるピアソラ (左チャンネル) の親密な語り合いです。
  9. Lejana tierra mia 遥かなる我が故郷 (カルロス・ガルデル曲、アルフレド・レ・ペラ詞)/カルロス・ガルデル (歌)
    上述のガルデルによる望郷の曲をもう一曲。これも1935年の録音で、実はこの年ガルデルはコロンビアで飛行機事故に遭い命を落とします。その運命、叶わなかった望郷の想いが何とも切ない一曲です。
  10. Tu pálida voz 君の青ざめた声 (チャルロ曲、オメロ・マンシ詞)/オラシオ・モリーナ (歌・ギター)
    歌手チャルロによる曲。とにかくオラシオ・モリーナの歌声のなんと柔らかく美しいことか。実はこの方、いわゆるアルゼンチン音響派の最重要人物の一人であるフアナ・モリーナの父上です。2007年リリースのアルバム “Buenos Amigos” より。
  11. La noche que te fuiste 君去りし夜 (オスマル・マデルナ曲、ホセ・マリア・コントゥルシ詞)/ノエリア・モンカーダ
    オスマル・マデルナはファンタジックな演奏スタイルで人気を博したピアニスト。悲しい別れを歌ったコントゥルシの歌詞にもぴったりの美しい曲です。ノエリア・モンカーダは何度か来日したこともある歌手で、柔らかく素直な歌声が心にしみます。2012年リリースのアルバム “Marioneta” より。
  12. Nocturno a mi barrio わが街へのノクターン (アニバル・トロイロ曲・詞)/アニバル・トロイロ
    アニバル・トロイロが1968年に録音したこの曲、ウバルド・デ・リオのギターを従えてトロイロがバンドネオンを弾き、生まれ育った街にささげた自作の詩を語ります。そのしわがれた声が強烈に郷愁をかき立てます。
  13. Éramos tan jóvenes 私たちはあまりに若かった (レオポルド・フェデリコ曲)/アントニオ・アグリ=レオポルド・フェデリコ=オラシオ・カバルコス
    現代最高のバンドネオン奏者のひとりだったレオポルド・フェデリコの作品。若き日への郷愁に満ち溢れた美しい曲です。これは1997年にリリースされたアントニオ・アグリのアルバム “Conversando con amigos” に収録されたもので、1980年代にフェデリコのアルバムに収録されたトラックと同メンバーによる再録音です。大貫妙子と小松亮太のコラボレーションアルバム『tint』にはこの曲の小松トリオによるカバーが収録されているので、聴いたことがある方も多いかもしれません。

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