デイヴィッド・バーン アメリカン・ユートピア

先日久しぶりに映画を観に行きました。『アメリカン・ユートピア』という映画で、元のトーキング・ヘッズのデイヴィッド・バーンが2019年にブロードウェイで行った同名のライブショーをスパイク・リー監督が映画化したものです

デイヴィッド・バーンのライブの映画と言えば、1984年の『ストップ・メイキング・センス』があります。これはトーキング・ヘッズのライブの映画化で、監督はジョナサン・デミ。後に『羊たちの沈黙』を撮って有名になる人です。

未見の方はぜひ全編観て頂きたいですね。Netflix や Amazon 等で観られます。私は大学時代に今はなき吉祥寺バウスシアターで観て衝撃を受け、その後も劇場で観たりブルーレイを買ったりしてきました。私の中では音楽映画ランキングの最上位に位置する名作です。ただし白状しておくと、私はその後もあまり熱心なトーキング・ヘッズのファンにはならず、あくまで『ストップ・メイキング・センス』のファンでした。従って、この後述べるデイヴィッド・バーンの印象は、ほぼこの映画のみで得たものです。他の局面での彼の人となりを知っている人から見ると、何等かの勘違いをしている可能性は否定しません (先に言い訳ですw)。

で、『アメリカン・ユートピア』です。2019年のブロードウェイでのデイヴィッド・バーンのライブをスパイク・リー監督が映画化したというこの作品、嫌が応にも『ストップ・メイキング・センス』の感動と興奮が甦ります。

という訳で、観に行ってきました。2021年5月30日10:15~ kino cinéma立川高島屋S.C.館。

とにかく圧巻のステージパフォーマンス!まず演奏自体が完璧!さらに、あらゆるケーブル類から解放されたメンバーの自由な動きとバーンの歌唱、ダンス、そして語りまでを含めたトータルのステージアートとして、ものすごい完成度でした。それを映画という形に固定したスパイク・リーの手腕も見事でした。これはデカいスクリーンとデカい音で観ないと勿体ないです。もっとも実際映画館で観ると、自然に身体が動いてしまって周りに迷惑をかけてないかと気になっちゃったり (小心者です)。絶響上映、爆音上映とかの類いで観るといいだろうなあ。

一方で、『ストップ・メイキング・センス』との違いも感じました。『ストップ・メイキング・センス』でのバーンって、何となく生身の人間感が薄いというか、アンドロイドみたいだと感じるんですよね。いや、ものすごい運動量でステージを走り回るフィジカルな印象も確かに強烈です。でも「サイコ・キラー」で歩き回りながらリズムの乱れにつんのめりそうになる動きとか、「ワンス・イン・ア・ライフタイム」の電撃を受けたようなアクションとか、重力の制約を離れたような浮遊感のある動き、あの有名なビッグスーツを着た姿、等々…。そして、言葉で客席に語りかけることもほとんどなく、あくまでクールに、観客とのコミュニケーションは楽曲を通じて行う、というスタイル。もちろんそれがかっこよかった訳ですが。

『アメリカン・ユートピア』でのバーンの姿はそれとはずいぶん印象が違いました。冒頭の脳科学の話に始まり、曲間ではユーモアを交えつつかなり饒舌に、歌詞の内容や演出意図から社会・政治の話に至るまでを語っています。曲が始まればやはり電撃アクションや浮遊感のあるダンスは健在で、かつてのアプローチと方向性にそれほど違いはないのですが、それを行っているのはクールなアンドロイドではなく、知的でフレンドリーな生身の初老の紳士としてのデイヴィッド・バーンでした。そして、この態度こそがこの映画で彼が繰り返し発していたメッセージを具現化したものでした。

『アメリカン・ユートピア』のタイトルロゴでは『ユートピア』は逆さまに書かれています。現状はユートピアの反対、という認識なのでしょう。でもバーンのメッセージは、それを認めた上でなおポジティブでした。人々は再びつながって行こう、我々は良くなって行ける、その可能性がある、というメッセージ。何よりそれをフレンドリーかつオープンに言葉で語ることが、かつてのストップ・メイキング・センス=意味付けなんてやめちまえ、理解なんてするな、という突き放した態度からの大きな違いであり、それ自体がメッセージなのだと感じたのです。

そして、残念ながら新型コロナウィルスのおかげでつながることが難しくなっている現在の私たちを思うと、より一層そのメッセージが強く響いて来るのでした。

それにしても、この映画の時点でバーンは確か67歳ですが、あの人は歳を取らないのでしょうか。『ストップ・メイキング・センス』での全力疾走に近い運動量に較べればおとなしいものの、その動きに垣間見える体幹の強さとバランス感覚は驚異的です。そして声にも全く衰えが感じられない。枯れた味わいとかは全く無縁で、キーも力強さも若い頃のままです。そういう意味では、彼はやはりアンドロイドなのかもしれません。

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