ピアソラ関連書籍2冊

先日、『ピアソラ その生涯と音楽』を読了。そのご紹介を…と思ったが、『ピアソラ 自身を語る』について、2006-08-13 でちょっと言及しただけできちんとした紹介を書いていなかったことに気付いた。
というわけで、両者まとめてご紹介。

  • ピアソラ その生涯と音楽
  • マリア・スサーナ・アッシ、サイモン・コリアー 著、松浦直樹 訳、斎藤充正 協力
  • アルファベータ
  • ISBN4-87198-537-7

最初に、ラティーナ2月号に高場将美さんが書かれたこの本に対する書評が極めて的確なので引用しておく。

 この本をご紹介する前に一言。ピアソラについて知りたい人に、まずお
すすめするのは、本人のことばによるナタリオ・ゴリンの本 (日本版
『ピアソラ 自身を語る』斎藤充正訳)。次に、斎藤充正著『アストル・
ピアソラ 闘うタンゴ』だ。後者の英語版が出ていたら、『ピアソラ そ
の生涯と音楽』は大幅に企画・構想を変更しなければならなかったろう。

ほぼ全面的に賛同したい。強いて言えば、タンゴの歴史やその中でのピアソラの位置付けについて、全く見通しがない人にとっては、逆の順番の方が良いかもしれない。
と、いきなり他の本を勧めるような書き方をしてしまったが、この本が極めて面白いのは間違いない。とにかく情報量がものすごいのだ。彼の音楽に関することから、ごく些細なエピソードまで、ほとんどフラットに詰め込まれている。ピアソラ自身に関する情報としては、この一冊で不足することはほとんどない。
ただし「フラットに詰め込まれている」ところが曲者である。あらかじめ多少なりとも彼の生涯なり音楽なりについて見通しを持っていないと、この本の記述だけでは彼の生涯の幹となる部分を見失ってしまうことになるだろう。
そのかわり、ピアソラの生涯や音楽について多少は知っている、という人にとっては、魅力的なエピソードが満載である。私自身、いくつもの新しい発見があり、ページをめくるのが楽しかった。
再び高場さんの書評から引用。

徹底的に集められた細部が、すごくおもしろいです。だから予習をしてく
ださい。


ピアソラ―その生涯と音楽 (叢書・20世紀の芸術と文学)(マリア・スサーナ アッシ/サイモン コリアー/松浦 直樹)

  • ピアソラ 自身を語る
  • ナタリオ・ゴリン 著、斎藤充正 訳
  • 河出書房新社
  • ISBN4-309-26902-8

というわけで本書である。
こちらは私がラティーナ 2006年9月号に書いた書評から引用。

 一読して驚かされるのは、ピアソラの極めて率直な語り口だ。音楽に対
する信念、自分のやってきたことに対する強い自信。いたずらが好きで、
強い闘争心を持ちながら時に引っ込み思案であり、嫉妬深く、恋愛に悩む
一人の人間としての側面(90年になってもアメリータのことを引きずって
いたなんて!)。もっと人生をうまくやっている人間はたくさんいるだろ
うに、こんなにもいろいろと闘ってこなければいけなかった彼の人生が、
愛おしくさえ感じられる。

 全体を通じて、いくつかのテーマに沿って語られる内容は必ずしも時系
列に沿ってきれいに並んでいるわけではなく、相互に矛盾する言葉も多々
ある。それはピアソラ本人や他の人物の率直な思いを尊重した結果であり、
この本の価値を決して損うものではない。それどころか、この率直さ故に、
ピアソラに関する記録の決定版として、広く多くの人に読まれるべき本で
あることは間違いないだろう。

というわけで、とにかく率直にピアソラが語った言葉の数々が収められたのが本書である。これだけの言葉を引き出せたのも、昔からピアソラと交流のあった著者ナタリオ・ゴリンの人柄と力量によるところが大きいだろう。
そのゴリンだが、悲しいことに昨年7月7日、日本語版の発売を間近に控えて急逝してしまった。素晴らしい本を残してくれたことに感謝するとともに、心から冥福を祈りたい。

ピアソラ自身を語る(ナタリオ・ゴリン/斎藤 充正)

ついでと言っては何だが、斎藤さんの『アストル・ピアソラ 闘うタンゴ』はこちら:

アストル・ピアソラ 闘うタンゴ(斎藤 充正)

[posted on 2007-02-24]

ピアソラ関連書籍2冊” に対して2件のコメントがあります。

  1. El bohemio より:

    ナタリオ・ゴリン著『ビアソラ自身を語る』を読んで“アディオスノニーノ”を台所に引き込み涙と共に生み出した瞬間の語りは胸に迫ってきます。このシーンを思い出しながら聞くこの曲の真髄が理解出ると思います。ピアソラの語るガルデル人物像は小生にとって目から鱗が落ちる貴重な裏ずけ証拠を確認させてくれた発言をしているのを発見したのです。それはガルデルは『ウルグアイ人の様に喋った』と言う発言。これはガルデルがフランス生れでなくウルグアイ生れであると言う証拠になるのです。

  2. よしむら より:

    コメントありがとうございます。なるほど、確かにガルデルのウルグアイ出生説を裏付ける有力な材料かもしれませんね。アディオス・ノニーノについても同感です。

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