Saluto! 東京公演 (2025/09/22 東京・日暮里サニーホール コンサートサロン)
既に2週間以上経過してしまったが、声楽家・石塚幹信の石塚声楽研究会が主催するサロンコンサート、Saluto! の東京公演に行ってきた。このコンサートは2011年に始まったもので、今年で17回目。当初は石塚の出身地である札幌で行われていたが、2016年からは毎年東京と札幌の2か所で同内容の公演を行っている (2020年は中止)。私は一昨年に聴いて以来2度目の参加。
出演は、まず企画構成・お話し・テノール・バリトンの石塚幹信。実は私とは高校同窓。

写真は主催者からご提供いただいたもので、撮影はアイカム グラフィック&フォトの秦泉寺学氏 (以下ステージ写真は同じ)。
ソプラノ金井知那実。

ピアノ橘田由希乃。

今回のテーマは「イタリアの歌を楽しむ」。声楽の王道とも言えるイタリア歌曲に真正面から取り組んだ内容である…とわかったようなことを書くが、私はこの分野は全くの素人。でもサロンコンサートというくつろいだ雰囲気の中、すべての曲に石塚自らの解説が付き、さらには歌詞対訳を含む解説冊子まで配布されるという至れり尽くせりのサービスによって、始めから終わりまで大変楽しく聴くことができた。

第一部はバロック期から20世紀までのイタリア歌曲の数々。順に並べてまとめて聴くと、素朴な四行詩に基づく楽曲を原点として、そこからの伴奏ピアノを含む音楽的な拡大、詩の文学性とともに高まる芸術歌曲としての価値、といったものがよくわかる。最後は「フニクリ・フニクラ」を客席も参加して楽しく。
第二部はイタリアのオペラ。オーストリアのモーツァルトもオペラはイタリア語で書いていたということで、そこから出発。当時のオペラは長尺の大衆芸能であり、日本における歌舞伎と同じような位置づけだったのかもしれない。今回取り上げられた中ではモーツァルトの『フィガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』やドニゼッティの『愛の妙薬』がそれに相当。

そこからやがてオペラは、現実世界を反映したテーマを扱うようになる。石塚によれば、それによってより深い感情表現が求められ、それが声楽家に肉体的負担を強いるようになり、結果として作品の上演時間は短くなっていった、という側面があるのだそうだ。なるほど、面白い。取り上げられた作品の中で印象に残ったのは、マスカーニの『友人フリッツ』からの「このわずかな花を」において、ピアノの和声もメロディも同時代の印象派に似た響きが感じられたこと。またレオンカヴァッロの『道化師』からの「よろしいですか?…」は、音楽そのものに加えて詩の内容のリアリズムに惹きつけられた。
最後はプッチーニの『ボエーム』。ここでSaluto!名物 (?)、石塚が一人で何役も演じるコーナー。今回は金井によるムゼッタの「私が街を歩くと」で、なんとソプラノのミミを含む6役を石塚が演じる。誰の役なのかわかりやすいように、と役名を並べた上にスポットライトを置いて、石塚が歌いながらその時演じている役のライトを切り替える、という仕掛け付き。本気の歌とコミカルな演出が最高に楽しい。

そんなわけで、今回も本格的な声楽を楽しく気軽に聴けて、しかもいろいろと勉強になるコンサートだった。私のような声楽門外漢でも、いや門外漢こそ楽しめる内容だったと思う。気になった方は来年ぜひご参加を。
Saluto! 東京公演
日時:2025年9月22日 (月) 19:00~
場所:東京・日暮里サニーホール コンサートサロン
出演者:
曲目:
【第一部】イタリアの歌曲
- Caro mio ben いとしい女よ (Tommaso Giordani) [石塚]
- Sebben crudele たとえつれなくとも (Antonio Caldara) [金井]
- Già il sole dal Gange 陽はすでにガンジス川から (Alessandro Scarlatti) [石塚]
- Vaghissima sembianza 限りなく優雅な絵姿 (Stefano Donaudy) [金井]
- Nostalgia 郷愁 (Pietro Cimara) [石塚]
- L’ultima canzone 最後の歌 (Francisco Polo Tosti) [石塚]
- Tormento!… 苦しみ (Francisco Polo Tosti) [金井]
- Ideale 理想の人 (Francisco Polo Tosti) [石塚]
- La serenata セレナータ (Francisco Polo Tosti) [石塚、金井]
- Ave Maria アヴェ・マリア (Pietro Mascagni) [石塚、金井]
- Giovanottino che passi per via 道行く若者よ (Ermanno Wolf-Ferrari) [金井]
- Nebbie 霧 (Ottorino Respighi) [石塚]
- Funiculì funiculà フニクリ・フニクラ (Luigi Denza) [石塚、金井]
【第2部】イタリアのオペラ
- Le nozze di Figaro 歌劇『フィガロの結婚』より (Wolfgang Amadeus Mozart)
- Se vou ballare もし踊りになられたければ [フィガロ:石塚]
- Non so più cosa son, cosa faccio 自分で自分がわからない [ケルビーノ:金井]
- Don Giovanni 歌劇『ドン・ジョヴァンニ』より (Wolfgang Amadeus Mozart)
- Dalla sue pace あの人の心の安らぎこそ [ドン・オッターヴィオ:石塚]
- Là ci darem la mano お手をどうぞ [ドン・ジョヴァンニ:石塚、ツェルリーナ:金井]
- L’Elisir d’amor 歌劇『愛の妙薬』より (Gaetano Donizetti)
- Caro elisir! sei mio! ~ La rà, la rà, la rà 素晴らしい妙薬 ~ ララ ララ ララ [ネモリーノ:石塚、アディーナ:金井]
- L’Allesíana 歌劇『アルルの女』より (Francesca Cilea)
- Lamento di Federico フェデリーコの嘆き [フェデリーコ:石塚]
- L’amico Fritz 歌劇『友人フリッツ』より (Pietro Mascagni)
- Son pochi fiori このわずかな花を [スゼル:金井]
- Pagliacci 歌劇『道化師』より (Ruggero Leoncavallo)
- Si può?… <Prologo> よろしいですか?… (プロローグ) [トニオ:石塚]
- La Bohéme 歌劇『ボエーム』より (Giacomo Puccini)
- Quando me’n vo <Valzer di Musetta> 私が街を歩くと (ムゼッタのワルツ) [ムゼッタ:金井、アルチンドロ:石塚、マルチェッロ:石塚、ミミ:石塚、ロドルフォ:石塚、ショナール:石塚、コッリーネ:石塚]
卓球好き、音楽好きです。飲み食い好きが高じて料理もします。2024年ソニーグループ(株)を退職し、同年より(株)fcuro勤務のAIエンジニアです。アルゼンチンタンゴ等の音楽について雑誌に文章を書いたりすることもあります。
なお、当然ながら本サイトでの私の発言は私個人の見解であります。所属組織の方針や見解とは関係ありません (一応お約束)。
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