民音タンゴ・シリーズ〈55〉パブロ・バジェ・セステート – タンゴの歴史 / Pablo Valle Sexteto – Historia del tango (2026/01/19 東京・文京シビックホール)

毎年この時期の恒例、民音タンゴ・シリーズのコンサートに行ってきた。今回はピアニストのパブロ・バジェが率いるセステート (六重奏団) で、『タンゴの歴史』というタイトルが付いている。

私が行ったのはツアー序盤、2公演目の東京公演で、場所は文京シビックホールの大ホール。

(終演後一杯飲んでから何も写真がないことに気づいて地下鉄駅構内でプログラムを撮影)

パブロ・バジェに関しては、2024年の小松亮太へのインタビューで彼がバジェを高く評価していたことが印象に残っていた。

そんなバジェが率いるセステート。最初に結論から言えば、大変素晴らしかった。タイトルの割には厳密に歴史を辿るような構成ではなかったものの、20世紀初頭の古典タンゴから1940・50年代の黄金時代、そしてピアソラ等による現代タンゴに至るまでを幅広くカバー。フアン・ダリエンソ、カルロス・ディ・サルリ、オスバルド・プグリエーセ、アストル・ピアソラといった巨匠たちの演奏スタイルを実に見事に継承し、再現していた。正直なところ新鮮さや、未知の音楽に触れるようなドキドキはない。そのかわりダリエンソならこう、プグリエーセならこう、という肝の部分をしっかり押さえており、聴く側は安心してそれぞれのスタイルに身を任せることができる。

それぞれのスタイルをしっかり押さえる、というのも実は決して簡単なことではない。基本的に上に挙げた楽団は、ピアソラを除いて大編成のオルケスタである。その音をセステートで再現するには単なるコピーだけではない工夫が必要で、しかもその工夫ポイントはアレンジから譜面に現れない演奏上のニュアンスまで多岐にわたり、楽団によっても異なる。安心して聴けるということの裏には、相当な研究と練習があったことが想像できる。

所々に挿し挟まれたバジェのオリジナル曲も良い。驚いたことに、どの曲もトラディショナルなタンゴと並べても違和感がない。尖った現代タンゴではなく、かと言って古いタンゴのファンに媚びたような俗っぽさもなく、なかなかに味のある佳曲揃いなのだ。

全体として、バジェの個性はほとんど表に出てこない。というか、そのようなスタイルが彼のトータルの意味での個性なのだろう。そんな中で唯一、「アディオス・ノニーノ」の導入のピアノ・カデンツァは彼の自己主張が込められた演奏だった。ピアソラがダンテ・アミカレリやパブロ・シーグレルのために書いたカデンツァを踏襲したものでなく、一方でオスバルド・タランティーノのようなジャズっぽいアドリブでもなく、パブロ・バジェ自身によるオリジナルのカデンツァ (1回しか聴いていないので断定はできないが、即興ではなく事前に準備したものと思う)。見事だった。曲の本編に入る前に立ってお辞儀したのはご愛嬌だが、それだけ本人も思い入れのあるカデンツァだったのだろう。

歌に関しては、歌手のロドリゴ・モレルは弱冠19歳!若い!伸びやかな美声の持ち主にシュッとしたいで立ち。最初はアクションの感じなどから、新人演歌歌手みたい、などと思ったりもしたが、第一部後半の「砂まじりのしわがれ声で」や第二部の「吟遊詩人のミロンガ」「白いスカーフ」など見事。特に「白いスカーフ」は、プグリエーセ楽団のスタイルの演奏も完璧で、個人的にはこの日一番印象に残った。

ダンスに関しては、例によって細かいことはわからないが、古い曲にはトラディショナルなスタイルで、新しい曲にはより凝った振付で、というようなメリハリがあって良かったと思う (わかってないことがバレバレな感想で恐縮)。全体の構成として器楽演奏、歌、ダンスの比率もちょうど良かった。ただ、おそらく構成上の理由と思うが、「キチョ」など一部の曲で聴きどころとなるはずの部分がカットされていたのはちょっと残念。

ツアーは3月1日まで続くので、これから公演が行われる地域の方はぜひ足を運んでいただきたい。

民音タンゴ・シリーズ〈55〉パブロ・バジェ・セステート – タンゴの歴史 / Pablo Valle Sexteto – Historia del tango

日時:2026年1月19日(月)

場所:東京・文京シビックホール 大ホール

出演者:

曲目:

【第一部】

  1. Ojos negros / 黒い瞳 (Vicente Greco)
  2. No mientas / 嘘つかないで (Héctor Varela, Alfredo Lattero / Héctor Marcó) *
  3. Dotarpeando / ドタルペアンド (Pablo Valle) #
  4. Para siempre / 永遠に (Pablo Valle)
  5. Pobre flor / 哀れな花 (Luis Mottolese / Víctor Feliciano Spíndola) *
  6. Loca / ロカ (Manuel Jovés) #
  7. Lluvia de estrellas / 降る星のごとく (Osmar Maderna)
  8. El sol / エル・ソル (Pablo Valle / Pablo Valle, Bernardo Bergé) *
  9. Carole / カローレ (Pablo Valle)
  10. Asia / アジア (Pablo Valle) #
  11. Campo afuera / カンポ・アフエラ (Rodolfo Biagi / Homero Manzi) *
  12. Yunta de oro / ジュンタ・デ・オロ (Osvaldo Ruggiero) #
  13. Carganta con arena / 砂まじりのしわがれ声で (Cacho Castaña) *
  14. Escualo / 鮫 (Astor Piazzolla)
  15. Quejas de bandoneón / バンドネオンの嘆き (Juan de Dios Filiberto) #

【第二部】

  1. Samurai / サムライ (Pablo Valle) #
  2. Melodía oriental / 東方のメロディ (Roberto Zerrillo, Juan Carlos Howard)
  3. Milonga del trovador / 吟遊詩人のミロンガ (Astor Piazzolla / Horacio Ferrer) *
  4. Picadito / ピカディート (Pablo Valle) #
  5. Mística / 神秘のミロンガ (Héctor Varela, Titi Rossi)
  6. Kicho / キチョ (Astor Piazzolla) #
  7. Mala junta / 不良仲間 (Julio De Caro, Pedro Laurenz) #
  8. Triunfal / 勝利 (Astor Piazzolla) #
  9. El pañuelito blanco / 白いスカーフ (Juan de Dios Filiberto / Gabino Coria Peñaloza) *
  10. Renacer / レセナール (Pablo Valle)
  11. Zum / スム (Astor Piazzolla) #
  12. Balada para un loco / ロコへのバラード (Astor Piazzolla / Horacio Ferrer) *
  13. Adiós nonino / アディオス・ノニーノ (Astor Piazzolla)
  14. Tanguango / タングアンゴ (Astor Piazzolla) #
  15. Libertango / リベルタンゴ (Astor Piazzolla)

【アンコール】

  1. La cumparsita / ラ・クンパルシータ (Geraldo H. Matos Rodriguez) *#

* 歌手

# ダンサー

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