三枝伸太郎 Orquesta de la Esperanza (2025/07/30 東京・渋谷 JZ Brat)

ピアニスト、作編曲家の三枝伸太郎が率いるOrquesta de la Esperanzaのライブ。

弦中心のアコースティックな編成は室内楽的でもあり、変拍子の多用や各人の即興ソロパートが組み込まれているところはジャズのラージアンサンブルの一形態のようでもある。そしてその根底には、通奏音のようにアルゼンチンタンゴが存在する。

今回のライブの中心に据えられたのは、「怒り」をモチーフにした新曲群。既にここ数回のライブで披露されてきた楽曲に今回初演の1曲を加えた6曲は、三枝がコロナ禍の中で感じた理不尽さ、自由の制限に対する感情、怒り、といったものが反映された曲なのだそうだ。最初に演奏された「Anger」は唯一タイトルが付いている曲。タンゴの中でも最も強烈なリズム表現であるジュンバ (オスバルド・プグリエーセの楽団のスタイル) で爆発する怒りが、やがて自分自身を狂わせていく、といった印象を持つ。今回初演の第一部4曲目の曲は、非常に速いテンポで綱渡りのようなぎりぎりのアンサンブル。こちらはまくし立てるような怒りの表明だろうか。他の新曲 (第一部5、第二部2~4) は、必ずしも明確な怒りとは限らないさまざまな感情が込められたものに思えた。このあとタイトルを付けて来年には発表する予定とのことで (確か、もう一曲加えると言っていた気もする) 作曲者の持つイメージとの答え合わせのような楽しみが待っている。

新曲以外の楽曲も含め、演奏はいつものようにすさまじくも素晴らしい。弦セクションの合奏の響きには感情の奥底を直接つかんで揺さぶられるような気持ちになるし、各人の即興ソロには高揚感を覚える。小田朋美は柔らかく澄んだ声で人間離れしたフレーズを歌うほか、第二部ラスト「光の中で踊る」では異なる表情の声もいろいろ。バイオリンの吉田篤は即興パートはほぼなかったと思うが、ソロの音色は息をのむ美しさ。

早くも年内最後のライブだったということなので、次に聴けるのは年明け以降になる。待ち遠しい。

以下はオマケ。JZ Bratに来るといつも頼んでしまうのがシーザーサラダ。一人だとこれで満足してしまう (どうせ終わった後飲みに行っちゃうし)。

JZ Brat恒例のアーティストをイメージしたカクテル。今年はグループ結成10周年ということで、それにちなんで “diez años” (10年) というもの。三枝が「入っているミックスベリーはメンバーそれぞれをイメージています…と言って楽屋でウケたんですが。ぜひベリーも味わってください。」などと言っていたが、カトラリーを下げられた後だったのでグラスからベリーを取り出すのが難しく、何とか一粒食べただけで諦めた。残念。

三枝伸太郎 Orquesta de la Esperanza

日時:2025年7月30日(水) 19:00~

場所:東京・渋谷 JZ Brat

出演者:三枝伸太郎 Orquesta de la Esperanza

曲目:記載がないものは三枝伸太郎作曲

【第一部】

  1. Anger 怒り *
  2. Peregrinación ペレグリナシオン *
  3. 歌っていいですか (L: 谷川俊太郎)
  4. (タイトル未定)
  5. (タイトル未定)

【第二部】

  1. El día que me quieras 想いの届く日 (M: Carlos Gardel, L: Alfredo Le Pera) #
  2. (タイトル未定)
  3. (タイトル未定)
  4. (タイトル未定)
  5. 光の中で踊る

【アンコール】

  1. 一日 (L: 谷川俊太郎)

* 岡部洋一、小田朋美を除く8人

# 岡部洋一、小田朋美、相川瞳、西嶋徹を除く6人

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