NHK『ファミリーヒストリー』の持つ危うさ

NHKの人気番組の一つに『ファミリーヒストリー』がある。

著名人の家族の歴史を本人に代わって徹底取材。「アイデンティティ」、「家族の絆」を見つめる番組。初めて明らかになる事実に、驚きあり、感動ありのドキュメントです。

ファミリーヒストリー – NHK

私もたまに観ると思わず見入ってしまうことが多い。祖先の方がすごい苦労をされていたり、思いもよらない名門の家系だったり、残されている逸話が本人のキャラクターと通じるものがあったり。よくここまで調べたなあという感嘆。祖先の想いに涙する本人への共感。

でも同時に、危うい番組だなあ、という気持ちも生じるのだ。私が観たことのある出演者の祖先は皆立派な方ばかりなのだが、著名人すべてが立派な祖先を持っているとは限らないだろう。他人には知られたくない「ファミリーヒストリー」を持っている人だってきっといるはずだ。例えば特定の出身地、祖先の誰かの犯罪歴、複雑な婚姻歴、等々。こういった要素を挙げること自体、これらが隠したい事情、差別を受けるかもしれない事情であると私が認識していることになり、なかなか微妙ではある。でも「こういった要素で差別するなんてあっていはいけないことです」と私が思っているとしても(実際思っている)本人が知られたくないと思ったとしたら、それは十分理解できるし尊重しなければならない。もっと言えば、調査の過程で本人も認識していなかったデリケートな事情を見つけたら…実際そんなことがあったかどうかは知る由もないが、あったとしても全然おかしくないし、これまでなかったとしてもこれから起きる可能性は十分ある。そしてその後の経過を想像すると、あまり気持ちの良いものではない。

だから、実際に放送にこぎ着けた分はともかく、素朴なファン心理で「〇〇さんのファミリーヒストリーが観たい!」などと騒いだりするのは実は非常に危険であり、厳に慎むべきだろう。或いは「なんで〇〇さん取り上げられないの?」という疑問から変な詮索が始まるようなことがあれば、番組の存在自体も見直す必要があるかもしれない。

そしてこれに共感してくれる人なら、選挙に出る人に対して「やましいことがないなら戸籍を公開しろ」などと言う声が上がることがどんなに危険なことか、ということにも共感してもらえると思う。

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