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小松亮太3days 3日目(2001.12.17)


よしむらのページ音楽的実演鑑賞の記録:小松亮太3days 3日目(2001.12.17)


データ

曲目

第1部 Beatの根源

第2部 オルケスタ・ティピカ

アンコール

所感

バンドネオン奏者の小松亮太がやりたい放題の企画満載で草月ホールを3日間占拠(?)した「小松亮太3days」。3日目の第1部は「Beatの根源」と題し、タンゴのビートを生み出す楽器であるピアノとコントラバスにスポットを当てたコーナーであった。

まず小松の母にしてタンゴ・ピアノの第一人者である小松真知子のピアノ・ソロ。MCでも触れられていたが、通常タンゴのピアノ・ソロをコンサート・ホールで演奏することは少なく、前日のパリージャ同様稀な試みと言える。華麗な展開の中にも左手の強い打撃によるタンゴのビートが生きていて、どの曲も聴き応えがあった。アルゼンチン・サンバの「アルフォンシーナと海」も美しい演奏。

続くコントラバスのパートは、この3日間の中でも最もスリリングなひとときであった。まず、斎藤が山崎の演奏に惚れ込んで急遽実現したという、デュオによる「コントラバヘアンド」、そして、2000年10月にオーケストラと小松のバンドネオンと斎藤のコントラバスで初演された「タンゴ・エクリプス」を新たにコントラバス四重奏に編曲しての演奏。パワフルなビートから繊細な響きまで、コントラバスの出し得る音を全て出し切ってしまうような斎藤の演奏が素晴らしい。山崎、松永、東谷もそれぞれの持ち味で対抗。特に根底のリズムを支えるのに徹した東谷の好演が光った。

3日間のステージの締め括りは2001年の小松の活動において最も象徴的だったオルケスタ・ティピカ。この編成を若手演奏家だけで実現できたこと、単なる懐古趣味ではない今日的表現をこの編成で模索し始めたことは、彼の大きな成果であったと思う。比較的珍しい曲「ウィンク」でスタートしたこの日の演奏だが、2曲目の途中に近藤のヴァイオリンの弦が切れる、というアクシデントが発生。急遽2日目に行われた「パリージャ」のスタイルで場つなぎの演奏が行われた。前日参加していなかった奏者のうち、北村はちょっと控え目であったが、Chicaは裏メロ・パートでも積極的に切り込んで、なかなか好演(見事に間違えた個所もあったが勢いで押し切った)。「マレーナ」では楽屋に控えていたロベルト・杉浦も急遽引っぱり出され、無事場つなぎ完了となった。

その後続いた演奏は、これまでにも増して厚みのある充実したものであった。基本的には2000年のビクトル・ラバジェンとの共演で得たものが根底にあり、曲目もプグリエーセ〜ラバジェン系列のものが多い。中でも「エバリスト・カリエーゴに捧ぐ」の動と静の対比、「ネグラーチャ」の独特のリズム感などが素晴らしい。

アンコールでは「ダンサリン」に続いて再びロベルトの飛び入りで「追憶」。彼の十八番とも言うべきこの曲で、3日間の充実したステージは締め括られた。

この3日間を通じて、小松のタンゴへの情熱、特にレギュラーのグループではできないような色々なスタイルを提示することによって、タンゴの幅広い魅力を少しでも多くの人に感じてほしい、という気持ちが強く感じられた。総勢約30名にも及ぶメンバーが関ったことも、演奏家に対する彼の啓蒙活動のひとつの成果と言えよう。演奏内容も、どれも非常にレベルが高く、素晴らしいものであった。

ただ、小松のこれまでの活動が一段づつステップを踏んでやって来た、ということを十分承知の上で書くと、次にはもっと曲やアレンジで小松オリジナルの面を出してほしい気もする。既存の良質なアレンジで演奏を磨くのは、特にオルケスタ・ティピカという編成を立ち上げて行くステップとしては避けては通れない道だが(そしてそれはかなり高い完成度を示しているが)、例えば小松や熊田の作曲もしくは編曲によるティピカの曲、などを今後は期待したい。

(筆者体調不良による執筆中断などにより、公演から大幅に遅れてのレポートとなってしまったことをお詫びします)。

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