東京ピアソラランド再歳末 (2000.12.21)

データ

曲目

第1部

  1. タンティ・アンニ・プリマ (アストル・ピアソラ)
  2. プレパレンセ (アストル・ピアソラ)
  3. マノ・ブラバ (マヌエル・ブソン)
  4. ノクトゥルナ (フリアン・プラサ)
  5. カミニート (フアン・デ・ディオス・フィリベルト)
  6. ラ・クンパルシータ (ヘラルド・エルナン・マトス・ロドリゲス)
  7. アディノス・ノニーノ (アストル・ピアソラ)
  8. ロス・マレアードス (ファン・カルロス・コビアン)
  9. 「タンゴの歴史」より ボルデル1900 (アストル・ピアソラ)
  10. ブエノスアイレスの冬 (アストル・ピアソラ)

第2部

  1. イマヘネス [イマヘネス676] (アストル・ピアソラ)
  2. 恋人もなく (アグスティン・バルディ)
  3. 無題のバルス (Chica)
  4. コラレーラ (アンセルモ・アイエタ)
  5. 天使のミロンガ (アストル・ピアソラ)
  6. エスクアロ (アストル・ピアソラ)
  7. ミロンガ・トリステ (セバスティアン・ピアナ)
  8. コントラプンテアンド (エドゥアルド・ロビーラ)
  9. 革命家 (アストル・ピアソラ)

アンコール

  1. ミケランジェロ [ミケランジェロ70] (アストル・ピアソラ)

所感

東京ピアソラランドは、ヴァイオリンのChica、ピアノの黒田亜樹が中心となり、 ピアソラをはじめとするタンゴを演奏するライブ・シリーズ。 1999年に歳末ライブをやって以来、ちょうど一年振りのライブが今回の 「東京ピアソラランド再歳末」であった。 今回は、二人に加えてChicaの率いる弦楽四重奏団O,K,Strings Quartet (以下OKSQ) も参加し、充実の演奏が繰り広げられた。

「タンティ・アンニ・プリマ」で静かにスタートした第1部はChicaと黒田の二人によるパート。 続く「プレパレンセ」は、この曲の特徴あるリズムをあえて抑えたアレンジで、 その分メロディの美しさが際立つ。 このあたりまでは若干の硬さもみられたが、 続く2曲のミロンガ「マノ・ブラーバ」「ノクトゥルナ」は、 非常に技巧的、現代的展開でありつつもミロンガのノリ、 楽しさにあふれる快演で、一気にテンションが高まる。 次の「カミニート」「ラ・クンパルシータ」はタンゴのスタンダード・ナンバーと呼べる曲。 前者は非常に味のある演奏で、例えばヴァイオリンが単音のスタカートでリズムを刻むところなどの何でもないような個所がとてもタンゴらしい。 後者は黒田のCD "Tango 2000" でのアレンジをベースにしたもののようで、 ピアノの低音のしつこい動きに特徴がある。 ここで、二人がそれぞれソロで演奏。 黒田の「アディオス・ノニーノ」は ピアソラ五重奏団の音をな可能な限りピアノに乗せてしまったもの。 それだけでも音の密度は非常に高いのだが、 この日の演奏はさらに気迫がこもっており、聴く側にも気合いが必要なほど。 Chicaの「ロス・マレアードス」は無伴奏ヴァイオリン・ソロで、 超絶技巧を駆使しつつ随所にタンゴを感じさせる演奏。 二人のパートの締めはピアソラ作品で、「ボルデル1900」「ブエノスアイレスの冬」。

休憩をはさんで第2部のOKSQのパートは、 彼女達のいわば十八番である「イマヘネス (イマヘネス676)」でスタートした。 続く「恋人もなく」は、アレンジ (ホセ・ブラガートによる) も演奏もとにかく美しい。 Chica作の題名のないバルス (ワルツ) はアルゼンチン風の速いテンポのもので、 続くミロンガ「コラレーラ」ともどもドライブ感がとても良い。 「天使のミロンガ」「エスクアロ (鮫)」はともに安定した演奏。 ここで黒田が加わって五重奏となる。 「ミロンガ・トリステ」は非常に斬新な和声が新鮮。 エドゥアルド・ロビーラ作の「コントラプンテアンド (対位法で)」は、 そもそも世紀末の東京で演奏されたこと自体が奇跡であろう。 タンゴ的情念とは無縁のところに美しさを追い求めた孤高の存在ロビーラの作品を、 現代の響きとして楽しく聴かせてくれた演奏は、 まさに快挙であったと思う。 とても熱くかつ緊張感に満ちた演奏の「革命家」でプログラムは終了。 アンコールは「革命家」の熱をそのまま引き継いで「ミケランジェロ」であった。

東京ピアソラランドの基礎知識

このライブシリーズ、第1回は1998年の5月に行なわれたが、 さらに少し前の同年2月、この前身となる重要なライブがあった。 OKSQが南青山マンダラで行った、題して「スーパー・ピアソラナイト」なるもの (タイトルのセンスはここから一貫しているのだ)。 ちょうど彼女達がピアソラの曲をメインに据えたCD「imagenes y imagenes」 (BAMBOO/山野楽器, YBOO-001) をリリースしたばかりの頃のこと。 この時ゲストで黒田も参加しており、 まさにピアソラランド前夜といった趣であった。 私はOKSQも黒田もこの時初めて知ったのだが、 実を言うと曲によって演奏の出来にはむらがあり、 必ずしも全てが素晴らしかったわけではない。 しかしながら彼女達のユニークなスタンスには興味を惹かれ、 また聴いてみたいと思ったのであった。

そして、改めてOKSQ + 黒田でオール・ピアソラを演奏するコンサートが行われたのが1998年5月。 場所は東京オペラシティのリサイタルホールで、 これが先に述べた記念すべき1回目の「東京ピアソラランド」であった。 それにしてもこのタイトル、良く言えばキュート、 悪く言えば冗談のようではある。 おそらくは舞浜方面のテーマパークのように、 ピアソラの音楽の色々な面を楽しく聴いてほしい、 というような意図だったのであろう。

この時期と前後して、 Chicaはバンドネオン奏者・小松亮太のグループに参加したり、 黒田はピアニストの小松真知子の門を叩いたりして、 それぞれタンゴを極めるための意欲的な活動を開始する。

ピアソラランドのVol.2 は、 同年10月にやはりオペラシティのリサイタルホールで行われた。 この時の演奏者はChica、黒田に加えてバンドネオンの小松亮太、 コントラバスの東谷健司。 バリバリのタンゴ人二人を招き、気合いの入ったコンサートであった。 レパートリーにピアソラ以外の曲が含まれるようになったのもここからのこと。

翌1999年には、南青山マンダラを拠点とし、 Chica、黒田に東谷を加えたトリオをレギュラーメンバーとして、 活発な活動が展開された。 ライブは3、5、7、10、12月に行われ、7、12月を除く3回は上記トリオによるもの。 7月はスペシャルバージョンで、カザルスホールにて小松およびOKSQが参加、 また12月は歳末バージョンでOKSQが参加。 曲目はピアソラ以外の比重が高まり、演奏のタンゴ度も一層濃くなる。

こうしてはた目には順調だったピアソラランドであるが、 翌2000年には一転して沈黙してしまう。 さまざまな事情があったらしいのだが、 とにかくこのままフェイドアウトしてしまうのはあまりに惜しく、 復活を切望していたところ、 ついに今回の「再歳末」が実現の運びとなったわけである。

ピアソラランドにとって、当然ながらピアソラの作品は重要な比重を占めている。 一方で、今回の演奏曲目を見てもわかるように、 レパートリーはより幅広くさまざまなタンゴに及んでいる。 しかも単なるスタンダードよりは現代に生きる名曲が選ばれており、 採用しているアレンジもなかなか秀逸。 本当はもう看板にピアソラの名前はいらないのではないか、とすら思えるのだが、 一方で東京ピアソラランドという味のある名前への愛着も今となっては捨て難いのだ。

さて、今年のピアソラランドはどうなるか、気になるところだが、 何やらいろいろと企画を練っている模様。 新世紀のタンゴもなかなか楽しめそうで、大いに期待してしまうのである。

[2001年1月18日(木) 記]


吉村俊司(東京都)

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作成:Jan 18, 2001
最終更新: Jan 18, 2001