サイト内検索 [検索の詳細]

フォーエバー・タンゴ 2001



よしむらのページ音楽的実演鑑賞の記録:フォーエバー・タンゴ 2001


データ

曲目

第1部

第2部

所感

度々来日して華麗なステージを繰り広げてきたフォーエバー・タンゴが今年もやってきた。 今回は、新世紀を迎えてのニューバージョンということで、大きな期待を持って会場に向かった。

公演プログラムによれば、今回はタンゴと「対立」するものとして、 アルゼンチン音楽のもう一つの大きな要素であるフォルクローレにもスポットを当て、 さらに両者の背景に存在するスペイン舞踏 (フラメンコなど) の存在にも目を向けた構成となっている。 タンゴだけにどっぷりとつかるのではなく、 他の要素を提示することでタンゴを捉え直し、 新しいタンゴの姿を模索する試み、とも言えるかもしれない。

この対立の構図が顕著であったのが第1部、第2部それぞれの2曲目「キロンボ」(娼館) であろう。 19世紀末にタンゴが生まれた場所を舞台とし、 女たちに見守られた街の男 (カルロス・ガビート) とガウチョ (フアン・サアベドラ) の対立が描かれている。 前者がタンゴを、後者がフォルクローレをそれぞれ象徴しており、 また女たちの身のこなしからはわずかにスペイン的な背景を感じることができる。

しかしながら第1部、第2部とも、そこから展開されたステージの、 肝心のタンゴの部分において、 昨年までのステージにあった圧倒的な濃密さ、 古典タンゴやミロンガ・カンドンベの群舞などに見られた生命力などがどうも薄まってしまったように感じられた。 ダンスのレベルは十分高い (ただし「リベルタンゴ」などでちょっと乱れもなかったではない) のに、 何となく観ていて遠くの出来事のような感覚なのだ。

一方、フォルクローレをベースとしたダンスはなかなか力強かった。 特に第2部の「マランボ」はステップやリズムにフラメンコ的な要素も取り入れられ、圧巻。 本公演最大の見せ場であろう。

このほか、エバ・ルセーロによる「オブリビオン」 などはクラシック・バレエ的なソロ・ダンスで、 旧来のカップルによるダンスとは異なる表現がなされた。

そして、 タンゴとフォルクローレの対立を改めて提示した上でさらに止揚する段階として、 第2部終盤では音楽監督アドローベル作の協奏曲の抜粋、 さらにはショスターコヴィッチの作品で踊る、という野心的な試みがなされた。 これは、タンゴがアルゼンチンという国の枠を越えて進化、 発展する姿の象徴でもあったのかもしれない。 しかし、この構成はいささか重く、 肝心のダンスもまだあまりこなれていないように感じられてしまった。 かくして、 もたらされるべき新しいタンゴ・ダンスの形が見えにくいまま幕となってしまったのである。 強い意欲は感じられるものの、私としては何となく消化不良気味であった (ただし、私自身のダンスへの理解度が浅いことも消化不良の原因であったかもしれない)。

さて、演奏についても触れておこう。 今回もやはりオーケストラの演奏は素晴らしく、 特に弦セクションのアンサンブルの美しさが目立った。 ウンベルト・リドルフィのヴァイオリンやルイス・ブラボのチェロによるソロも随所で息を飲むほど。

前バージョンの時代から継続して演奏されている「レスポンソ」 や「エバリスト・カリエーゴに捧ぐ」などはまさに珠玉の名演と言えよう。 重厚な「エル・マルネ」「ラ・ボルドナ」も素晴らしい。 また、アドローベルのバンドネオンとブラボのチェロの二重奏による 「両親の小さな家」は、その親密で細やかな表現と緩急自在の演奏で、絶品であった。

今回目立ったのはアドローベルの自作の占めるウエイトが非常に大きくなったことである。 古今の名曲をちりばめた「オーバーチュア」や「キロンボ」 はステージの構成と切り離せない存在であろうが、 それとは別の独立した作品として、 複雑な繰り返しを多用して重層的な効果を上げていた 「ミロンガ・エン・トレス」や現代的な響きが美しい「ス・ス」が印象に残った。 一方で、「バンドネオンとチェロ、オーケストラのための協奏曲」 は上述の重すぎる構成の影響もあってか、あまり強い印象は残らなかった。 さらに、「父に捧げるプレリュード」については、 ピアソラの「アディオス・ノニーノ」の和声進行、 各主題の構成などの構造をほぼそのまま使用しており (だから一緒に頭の中で「アディオス・ノニーノ」を流すとぴったりと一致する) これを独立の作品と呼ぶことには個人的に抵抗を感じてしまう。

このほか、「ベンタロン」のギター伴奏や第2部終盤のクラシック系作品のオーケストラ演奏などで、 予め録音された音が流されたのは何となく興ざめな気がした (もちろん楽器編成上止むを得ないことではある)。 また、基本的にPAのバランスは悪くなかったのだが、 歌手カルロス・モレルの歌だけは異様に音が大きく、 ちょっときつかった。

さて、何だかんだといろいろ勝手なことを書き連ねて来たが、 フォーエバータンゴの新しいバージョンでの公演はまだ始まったばかり。 これまで10年をかけて洗練の極みに達した前バージョンの公演を続けても まだまだ多くの観客を集めることができたはずなのに、 あえて新しい挑戦を始めた勇気には拍手を送りたい。 そして今回の内容が公演を重ねることでどのように変化し洗練されて行くのか、 次の機会にはまたぜひとも確認してみたいと思っている。


よしむらのページ音楽的実演鑑賞の記録:フォーエバー・タンゴ 2001 || ページの先頭