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ロビーラを聴く(その2)〜行きあたりばったり音楽談議(16)


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はじめに

今回は、一番最近リリースされたロビーラのCDをご紹介します。1960年代前半に録音された2枚のアルバムからの編集盤です。

対位法から12音階まで

昨年アルゼンチンのソニー・ミュージックから発売されたタンゴの編集盤CDシリーズ"Tangos del Sur"は、一部に安易な企画(既発盤の焼き直しなど)もありましたが、何枚か非常に貴重な復刻が含まれていました。中でも最大の収穫がこのロビーラのCD (microfón/Sony 2-493841, Argentina)でしょう。

最初の5曲は1962年に録音された2枚組LP "Tango Buenos Aires"から、残りは翌年の"Tango vanguardia"からの抜粋です。編成はバンドネオン、ピアノと弦セクションで、前者が八重奏、後者が七重奏となっています。グループの名前はAgurupacion de tango moderno (現代タンゴ集団)で、前回ご紹介したアルバムでのグループ名とも似た名前になっています。実はロビーラは、八重奏でこの前に1枚、トリオでこの後に2枚のアルバムをリリースしており、またレイナルド・ニチェーレをリーダーとする四重奏の2枚のアルバムにも参加していますが、トリオの1枚を除いていずれも同じグループ名称を使っています。

さて、このCDで聴かれるのは、クラシック音楽の要素を随所に取り入れつつタンゴらしい力強さと哀感を表現した、極めて個性的な音楽です。

"Tango Buenos Aires"はバレエのための音楽で、全曲がロビーラの作品。1962年当時のタンゴとしてはあまり例のないトータル・コンセプト・アルバムです。本CDに収録された中では「我が街のヴァイオリン」(1)が、前回ちょっと言及した同曲の最初の録音であるほか、(2)〜(5)も後年のクールな表現とは違った力強さ、激しさを持っています。このアルバムについては別途完全版の復刻も出ていますので、可能なら是非入手してみてください(完全版については後日改めて紹介します)。

"Tango vanguardia"からの楽曲は、さらにクラシックからの影響が如実に現れています。カデンツァ風のバンドネオン・ソロが素晴らしい「バンドーマニア」(7)、題名通りどこまでも対位法的にどんどん展開して行く「対位法で」(9)は、明快な曲想でモーツァルトのような音楽の楽しさに満ちた作品。重厚な「ピアノとオルケスタのために」(10)ともども、いずれもタンゴの作曲手法としては確かに前衛かもしれませんが、クラシックの視点でみるとむしろ古典的といえるでしょう。「モノテマティコ」(11)はタンゴ性がより強く、終盤のバンドネオン変奏が聴きものです。

一方で「12音階」(12)は、題名通りシェーンベルクの12音階技法を採り入れた、紛れもなく前衛の作品。白状すれば、私はシェーンベルクの作品を聴いたことがなく、12音階技法の何たるかも正確に理解しているわけではありませんので、技法の面でこの曲がどのような評価に値するのかはわかりません。ただ、かなりスリリングで刺激的な曲であることは確かです。特にロビーラのバンドネオンと弦の絡み、マンシのピアノ・ソロがすごい!

ところで、CDの表記では"Tango vanguardia"からの曲目も全てロビーラの作品ということになっていますが、参考文献の記述によれば、他の作曲家の作品も含まれています。中でも特に注目に値するのは、ピアニストでこのアルバムの録音にも参加しているオスバルド・マンシの「シンプレ」(6)でしょう。お気づきの方もいらっしゃると思いますが、マンシはピアソラのグループにも参加していた名手です。ピアソラ五重奏団、マンシ自身のトリオもこの曲を取り上げており、いずれもCDで入手可能です(アストル・ピアソラ『キンテート“ヌエボ・タンゴ”』(EPIC, ESCA7400)、Osvaldo Manzi "Tangos en visto y oido" (Microfon/SONY, 2-478994, Argentina)。三つを聴き比べてみると、ピアソラ、ロビーラそれぞれの編曲の魔術によってまるで違う曲のように聴こえるのが恐ろしいところですが、いずれも名演で一聴に値します。この他、チェロのエンリケ(キケ)・ラノーによる「黒人の友への挽歌」(8)は作者自身のソロが素晴らしく、またホセ・アントニオ・モレーノの「ヘンテ」(13)も緩急に富んだ現代タンゴです(作者名はいずれも参考文献の記述による)。

というわけで

ロビーラの音楽が独特の熱を持っていた頃の録音が聴けるCDをご紹介しました。意外に親しみやすい曲もあり、ロビーラ入門としてはおすすめの1枚と言えます。ピアソラをはじめとする現代のタンゴに興味のある方、クラシック音楽が好きな方は、ぜひ一度聴いてみることをお勧めします。

データ

参考文献:

(2003年9月1日作成)

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