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ピアソラをめぐるいくつかの個人的な事柄(その1)〜行きあたりばったり音楽談議(8)


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はじめに

今月はピアソラについていろいろ…と予告してからずいぶん空白が空きましたが、ようやく始動です。最初は個人的なピアソラ体験を綴ってみます。ちょっと長くなりそうなので2回に分けます。

ピアソラをめぐるいくつかの個人的な事柄 (その1)

タンゴとの出会い、ピアソラとの出会い

私がタンゴを聴き始めたのは大体1974〜5年ごろ、歳で言えば11〜12歳ぐらいの頃のことでした。音楽好きの母が家の中で流していたクラシック、シャンソン、カンツォーネ、タンゴなどのうち、なぜかタンゴが私の肌に合ってしまったようです。家にあった2、3枚のレコードを繰り返し聴き、そのうちNHK-FMの「ラテン・タイム」で、大岩祥浩氏の担当するタンゴの回(月1回)を欠かさずエアチェックするようになります。ラジオではさまざまなスタイルのタンゴが流れましたが、当時はフアン・ダリエンソ、フランシスコ・カナロ、ロベルト・フィルポ、オスバルド・プグリエーセなどがお気に入りでした。プグリエーセ以外は古典派、伝統派ばかりです。

そんな中、ある日流れたのがピアソラの曲です。1970年のレジーナ劇場でのライブの「ブエノスアイレスの夏」あたりだったものと思われます。しかし、当時の私の耳には「最悪」に聴こえました。タンゴらしくないリズム、不協和音など、まあ確かに小学生〜中学生の耳には難しかったのかもしれませんが、とにかく一遍で「アンチ・ピアソラ」になってしまったのです。以後、エアチェックをしていてもピアソラがかかるとわざわざテープを巻戻して、次の曲を重ね録りしていました。当時のテープからは、きれいさっぱりピアソラの存在は消されていたのです。

ピアソラを認知する

最初にピアソラの音楽に感動したのは、ピアソラ以外の演奏によるものでした。1976年に来日した、現代バンドネオン奏者の最高峰の一人、レオポルド・フェデリコ。公演自体は聴き逃したのですが、NHK-FMでのスタジオ・ライブはしっかりとエアチェックしました。その中で流れた、トリオによる「アディオス・ノニーノ」には強い衝撃を受けました。唸り声を上げながら弾くフェデリコのバンドネオンの凄さ、そして曲自体の美しいメロディーとドラマチックな構成に、とにかく圧倒されてしまいました。そしてこの曲の作者が他ならぬピアソラであることにも少なからずショックを覚えたものです。

その後も、ピアソラ本人の演奏に対してはまだ若干の抵抗がありましたが、セステート・マジョールの「ブエノスアイレスの夏」や「ピアソラ・メドレー」、フォルクローレのロス・アンダリエゴスが演奏する「ブエノスアイレスの秋」などに心惹かれるものがあり、ピアソラの曲の良さを徐々に感じられるようになりました。おそらく、同時期にフォーク、ロック、フュージョンなどの音楽に目覚め、自分の耳の許容範囲が広がったことも関係しているでしょう。

転向

高校生ぐらいのころ、やはりNHK-FMで、日曜の朝に「世界の音楽」という番組がありました。一部は谷川越二さんの解説でラテン音楽のコーナー、その中で不定期にタンゴがかかりました。その中である日流れてきた曲に、私の耳は釘付けになりました。ずっしりと重く、かつ絶妙にスイングするピアノ・ソロ、そこから徐々にバンドネオン他の楽器が加わっていく展開、ハイハットやギターの16ビートとコントラバスの紛れもないタンゴのグルーヴの重ね合わせ、再び登場するピアノ・ソロのメランコリックな美しさ、ラストに向けて全員で盛り上がる爆発力…。こんな音楽聴いたことない、と思えるほどの素晴らしさを感じたのは、ピアソラのコンフント・ヌエベによる「オンダ・ヌエベ」という曲でした。この一曲でついに私は熱狂的なピアソラ・ファンへと転向したのです。

不覚

残念なことにコンフント・ヌエベのLPは当時廃盤で、入手できるのは随分先の話になります。とはいえピアソラの五重奏のレコードのいくつかはちょうど再発されて、早速いろいろ買い求めては繰り返し聴き、どんどんのめり込んで行ったものです。

ところで、当時私は札幌在住でした。1982年、東京の大学を受験したものの失敗、一年の浪人生活を送ることになります。まあ自分の不勉強ゆえの不合格ですから、しょうがないか、という気分で札幌にある予備校に通っていました。ところが!この年の秋になって、ピアソラがついに来日する、というニュースが飛び込んできます。しかも札幌にはやって来ない。ああ、なんということでしょう。この時初めて、受験失敗を心から悔やんだのでした。

というわけで

ピアソラとの出会いからピアソラにのめり込むまでについて、個人的な体験を綴ってみました。次回もこの続きになります。いささか自己満足的な気もしますが、もう少々おつきあい下さい。

(2002年7月20日作成)

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