よしむらのブログ


[社会][政治] 石破茂氏の発言から思うこと

自民党幹事長の石破茂氏の発言がいろいろと話題になっている。 発端は東京新聞の2,013年7月16日付記事。

肝心のところは有料会員でないと読めないが、転載しているブログなどもあるので興味のある方は探してみていただきたい。

この中で、石破氏が

 「『これは国家の独立を守るためだ。出動せよ』と言われたときに、いや行くと死ぬかもしれないし、行きたくないなと思う人がいないという保証はどこにもない。だから(国防軍になったとき)それに従えと。それに従わなければ、その国における最高刑に死刑がある国なら死刑。無期懲役なら無期懲役。懲役300年なら300年。そんな目に遭うくらいなら、出動命令に従おうっていう。人を信じないのかと言われるけれど、やっぱり人間性の本質から目を背けちゃいけない」

と発言したという記述があり、一部で騒ぎになった。例えば下記のブログの記事。

個人的には最初、大変な問題発言であり、とんでもないことだ、と思ったのだが、一方で石破氏のことだから、いきなり論理破綻しているようなトンデモ発言をすることもないだろう、とも思えた。これは調べてみるしかない。

まず、上記発言がなされた2013年4月21日の「週刊BS-TBS編集部」の映像をみてみる事にした。どういうわけか(笑)YouTubeには石破氏の出演した部分がほぼ全編アップされているので、早速視聴。

石破幹事長 憲法改正について語る

上記の発言はPART3で出てくる。改めて埋め込んでおくが、時間がある方はぜひPART1から通して観ていただきたい。

問題となっている発言の前後も含めて、改めて箇条書きに彼の発言をまとめてみると以下の通り。

  • 憲法(改正案)の他の条項に、軍事裁判所的なものを創設する、という規定がある。
  • 自衛隊が軍でないことの何よりの証拠は軍法裁判所がないことである、という説がある。
  • 今の自衛官は、命令を拒否したとしても目一杯行って懲役7年。
  • 国家の独立を守るためだ、出動せよ、と言われて嫌だという人がいないという保証はどこにもない。
  • それに従わない者は、その国の最高刑、死刑がある国は死刑、無期懲役なら無期懲役、懲役300年なら300年。
  • そんな目に遭うぐらいだったら出動命令に従おうっていう(歯止めになる)。
  • 今の自衛官は服務の宣誓をして自衛官になっているが、彼等の誓いだけがよすがとなっている。それでよいのか。
  • 軍事法廷は全て軍の規律を維持するためのもの。
  • 憲法改正案に記載されている「審判所」がそれにあたる。
  • 公開の法廷ではない。
  • 最終的には不服があれば上告することも可能だ、ということは理論的にはありうる(上訴権の規定がある)。
  • 何でも秘密でやってしまうということはしない。
  • しかし、審判所の目的は軍の規律を維持するということであって、そのことに広げることはしてはならない。
  • 上訴は認めているが、審判に何年もかかるようでは規律の維持は難しいので、そこの調整は図らねばならない。
  • 帝国憲法下の軍事法廷はどうであったかの検証はきちんとやらなければならない。

私の理解できる範囲で思い切り要約してみると、こんな感じか。

  • 国防軍を「普通の軍」たらしめるため、憲法改正案では軍事法廷に相当する「審判所」の設置を規定している。
  • 審判所は軍の規律の維持のためにある。
  • 規律の維持のため、例えば出動命令に従わない者には最高刑を科すことになる。

これに対し、私の感じた違和感は以下の通り。

まず、出動命令に従わない者に最高刑を科することが、軍という組織においては当たり前のような発言をしているが、本当にそうなのか。

対比させている現行の自衛隊法の規定を確認してみる。

第百二十二条 第七十六条第一項の規定による防衛出動命令を受けた者で、左の各号の一に該当するものは、七年以下の懲役又は禁こに処する。

 一 第六十四条第二項の規定に違反した者

 二 正当な理由がなくて職務の場所を離れ三日を過ぎた者又は職務の場所につくように命ぜられた日から正当な理由がなくて三日を過ぎてなお職務の場所につかない者

 三 上官の職務上の命令に反抗し、又はこれに服従しない者

 四 正当な権限がなくて又は上官の職務上の命令に違反して自衛隊の部隊を指揮した者

 五 警戒勤務中、正当な理由がなくて勤務の場所を離れ、又は睡眠し、若しくはめいていして職務を怠つた者

2 前項第二号若しくは第三号に規定する行為の遂行を教唆し、若しくはそのほう助をした者又は同項第一号若しくは第四号に規定する行為の遂行を共謀し、教唆し、若しくはせん動した者は、それぞれ同項の刑に処する。

自衛隊法

つまり、自衛官が「目一杯行って懲役7年」に処せられるのは、大雑把に言えば防衛出動命令に背いた者、ということになろう。

では、いわゆる「軍」においてはこのようなケースが本当に最高刑に相当するのか。一般的な例として適当かどうかはわからないが、旧日本軍の規定が見つかった。

逃亡罪(とうぼうざい)は、陸軍刑法第75条ないし第78条、海軍刑法第73条ないし第77条に規定された罪である。 陸軍刑法第7章第75条には次のように記されている。
『故ナク職役ヲ離レ又ハ職役ニ就カサル者ハ左ノ区分ニ従テ処断ス
 1. 敵前ナルトキハ死刑、無期若ハ5年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス。
 2. 戦時、軍中又ハ戒厳地境ニ在リテ3日ヲ過キタルトキハ6月以上7年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス。
 3. 其ノ他ノ場合ニ於テ6日ヲ過キタルトキハ5年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス。』
又、未遂についても第77条に「死刑又ハ無期ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス」と罰則が規定されている。

「党与して」上の罪を犯した者、すなわち徒党を組んで逃亡したときは、
1. の場合は首魁は死刑または無期の懲役もしくは禁錮。その他の者は死刑、無期または7年以上の懲役または禁錮、未遂罪も罰せられる。
2. の場合は首魁は5年以上の有期懲役または禁錮、その他の者は6月以上7年以下の懲役または禁錮。
3. の場合は首魁は1年以上7年以下の懲役または禁錮、その他の者は3年以下の懲役または禁錮。
艦艇の乗員が故なくその艦船発航の期に後れたときは、その経過日数を問わず以上の罪に問われる。(→後発航期の項目を参照されたい) 「敵に奔りたる者」すなわち故意に敵に投降逃亡した者は死刑または無期懲役もしくは禁錮に処せられる。未遂罪も罰せられる。

Wikipedia 逃亡罪より引用)

なんと、敵前逃亡こそ最高で死刑だが、それ以外は懲役か禁錮だ。海外の事例は具体的な記述がなかなか見つけられなかったのだが、例えばアメリカでは「敵前逃亡」でも以下の様な状況とのこと。

現在では、アメリカ軍では懲役刑や配置換えなどで対処される場合が大半であり、実際に銃殺刑の判決を受けても減刑されている。第一次世界大戦以降、アメリカ軍で敵前逃亡による罪で銃殺刑になったのはエディ・スロヴィクの1名のみである。

Wikipedia 敵前逃亡 / アメリカの事例より引用)

最も重い敵前逃亡ですら現実には死刑を免れている。

そもそも、このような量刑は憲法に記載されるものではなく、当然自民党の憲法改正案にも書かれていない。つまり、憲法改正案で想定している国防軍や審判所の具体的イメージを共有するための説明として、出動命令に従わない者は最高刑、ということを述べたことになる。そしてそのイメージは、旧日本軍やアメリカ軍の規定と比べても兵士を強く押さえつけるものであり、ずいぶん踏み込んだ強権的な統制を狙ったもの、と言えるのではないかと思う。

そしてもう一点の違和感が、軍事法廷相当の機関を持つことが普通の軍の要件であるかのように述べられていること。確かに軍は一般国民とは異なるレベルで規律統制をはかる必要があり、そのために軍法が定められている。一方で、軍人を裁くために軍事法廷を持つことの弊害も指摘されている。例えば「軍法会議復活めざす自民党憲法改正草案の時代遅れ――軍事ジャーナリスト 田岡俊次」という記事では

①身内の裁判であるため「仲間かばい」や「組織防衛」(すなわち上部の保身)が露骨に反映され、国民の不信を招く

②兵卒や叩き上げの下士官など下級者には厳格だが、高級将校の責任は不問となる例が多く、規律の乱れの元となる

③軍法会議を開けば世間に事実が知れて軍の威信を損なったり、監督責任が問われるような場合、捜査も憲兵隊(自衛隊では警務隊)が行うからもみ消しが横行する

④被告の同期生や、思想に同調する将校らが救援活動を行い、集団で軍上層部や軍法会議に圧力をかけたり、法廷で上官である判事に暴言を浴びせるなど下剋上の風潮が生じる

といった弊害が上げられている。同記事によればドイツでは制度はあっても設置されておらず、オランダやベルギーでは廃止されているのだそうだ。

一般的な話として、自衛隊を軍として再定義する、という考え方には一定の合理性があることは認めざるをえないかもしれない。ただ、仮にそうするとしても、仮にも現行憲法の9条を66年も守ってきた日本なのだから、軍事法廷のような旧来の軍の常識にはとらわれず、新しい軍のあり方を十分模索すべきではないかと思う。

逆に、石破氏の発言からは、現在の自衛隊がいかに「普通の軍」でないか、ということに対する積年のいらだちが見える気がする。その裏返しとして、自民党の憲法改正案における国防軍は、旧来の典型的な軍の形を踏襲し、なおかつ強権的な統制を図ることを目指しているようにも思える。

そして、整理することで改めて確認できた。私はこのような憲法改正案には反対である。

2013年7月17日~18日の2日間での調べたこと、考えたことは以上のとおり。この分野については全くの素人がバタバタとやったことなので、的外れな部分もあるかと思う。おかしな点は随時コメントいただければ幸いです。

2013年07月19日 03:04更新
2013年07月19日 03:04投稿

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